「呪術廻戦」、「進撃の巨人」などのアニメーション制作で知られるMAPPAのスタジオ分室。
2019年には2.5兆円規模となったアニメーション産業。その制作会社全国622社のうち、東京には87%にあたる542社、その中でも東映動画やタツノコプロが60年代に設立された杉並区と練馬区には241社も集まっている。制作会社では多くのアニメーターを必要とするが、このエリアには大きなオフィスビルが少ないため、スタジオ分室を設けることが多い。MAPPAでも荻窪の青梅街道沿いの本社とは別に阿佐ヶ谷などに既にいくつか分室を持っている。
この天沼八幡通り沿いの分室も、昨今のプロジェクトの増加に伴い計画された。元々1Fは調剤薬局、2,3Fはクリニック想定して建設されたビルだったが、3Fをマネージャールーム、1,2Fはアニメーターのスタジオとして計画した。奥行きが深い敷地に建てられたこのビルはクリニック想定だったため、待合が想定された手前は大きな開口があるが、治療室想定の奥側は排煙用の必要最低限の開口しかなかった。3Fはある程度採光があったこともあり、マネージャールームとしたが、アニメーターはむしろ日光があまり入らない集中できる環境を好むこともあり、スタジオは奥に設けた。1,2Fは道路側にラウンジを設け、アニメーターが作業の合間にリフレッシュできるようにした。ミーティングルームはラウンジエリアと奥のスタジオの間にあり、スタジオとの間の緩衝帯となっている。道路側からラウンジを通して採光ができるように開口を大きく設けた。アニメーター用のデスクはモニターを奥の棚の上に置けるようにして、手前にトレース台、液晶タブレットなどの配置を想定して設計し、集中しながらもコミュケーションが取れる様にブースの高さを決め、ラーチ合板で製作した。
近年、アニメーターの人材不足が深刻になっている。原因としては経済条件の良い中国のアニメ会社やゲーム業界への人材の流出などがあげられる。優秀な人材を確保するためにも、職場環境の改善が必要で、デスクを温かみのある木材にして、リフレッシュできるラウンジ空間を重視した。この制作会社では将来的には中央線沿線の大きな敷地に全分室を集めて、自然あふれるアニメーターズビレッジを作って、ファンも訪れる事ができるショップやカフェも併設できればと考えている。
- 敷地:東京都杉並区
- 用途:オフィス
- 施主:株式会社MAPPA
- 設計:小山光 + KEY OPERATION INC. / ARCHITECTS
- 施工:男鹿建業
- 延床面積:468㎡
- 竣工:2021.06
- 撮影:小山光