新橋駅から徒歩2分にある裏路地に面する飲食テナントビル。
サラリーマンの街頭インタビュー光景が多く見られる新橋は、ビジネス街と仕事帰りのサラリーマンが気軽に立ち寄れるガード下や路地裏の飲食店で知られる。明治時代に鉄道が敷設されてから飲食店が立ち並ぶようになった。終戦後、新宿に並んで、闇市が隆盛を極めた新橋では、現在でも昭和の混沌とした雰囲気の路地が多く残る。
敷地は烏森神社の参道のすぐわきに伸びる路地に面している。この路地に面していた飲食店の多くは格子戸やすりガラスでなどで、中がうかがえない作りになっていて、常連でないと入りにくかった。既存の建物にも小料理屋が入っていたが、コロナ禍の影響もあり、お店は閉店し、小さな飲食テナントビルとして建て替えることになった。
この建物の隣にある参道と路地の角にある「烏森百薬」という居酒屋は、テラス席もあるオープンな作りでサラリーマンや烏森神社の参拝客が中を覗いて気軽に入れるようになっている。2018年秋にオープンしてから、昔ながらのクローズドな路地の雰囲気を一変させた。この居酒屋はその業態もかなりユニークで、メインのメニューの8割は外部のレストランから取り入れて、食のセレクトショップの様になっている。客の要望も反映されるため、その作りだけでなく業態の透明性も高い。
コロナ禍の中で多くの飲食店は常連客だけが入れるクローズドな業態では営業が成り立たない。そこで飲食テナントを想定しているこのビルもなるべく前面の路地に対してガラス張りで、路地に対して面するファサードが敷地の奥の壁として、店内が路地と一体感をもてるようにしている。
路地が狭く、工事の資材搬入に制限がある敷地のため、コンクリートの打設は基礎のみとして、上階のスラブはALCにしている。ALC床も鉄骨も人力でも運べるような部材の大きさにしている。
1Fテナント区画は、ガラスの引き違い戸として、路地が店内まで拡張できるようにした。2,3Fテナント区画への階段はコンパクトにしながらも、1Fから上がって来やすい正面からのアプローチとした。3Fは道路斜線でセットバックした部分がテラスとなっていて、折戸で全面開く事が出来る様にして、内外で連続的に使用できるようにしている。
- 敷地:東京都港区
- 用途:飲食テナントビル
- 竣工:2021.10
- 施工:ダブルボックス
- 写真:矢野紀行写真事務所
- 敷地面積:62.93㎡
- 建築面積:51.97㎡
- 延床面積:126.32㎡